2017年1月20日金曜日

睡眠時間の短縮が肥満リスクを増加させるメカニズムを解明 - 花王との共同研究

株式会社花王と、以前から行っていた短時間睡眠と代謝に関連した研究が、論文として発表されました。これにともなって、早稲田大学と花王の両方からプレスリリースが出されました。

論文は以下のものです。
http://www.nature.com/articles/srep39640

英国Nature Publishing Groupの電子ジャーナルScientific Reportsに2017年1月10日にオンラインで掲載されました。

この研究の詳細は、早稲田大学のプレスリリースをお読みください。
https://www.waseda.jp/top/news/47804

この研究は、花王の研究所が所有している、メタボリックチャンバーの使用なしにはできない研究でした。我々の睡眠の生理学測定についての技術と、花王の代謝に関連した研究の技術の両者の協力で、非常に興味深い研究ができたと思います。

睡眠時間が十分でない生活をすると、食欲が増し、肥満のリスクが増加する。十分な睡眠をとることが、健康な体を維持する上でも重要な事が明らかになりました。


2017年1月4日水曜日

おだわらっ子の約束

お正月はいかがお過ごしだったでしょうか。私は、例年通り(今年は家内と)、箱根駅伝の応援に行きました。残念ながら、今年は早稲田大学の選手としては、私のゼミ生は出場しなかったのですが、応援の場所としては、7区の小田原を選びました。過去2年は、6区を走る選手を応援していたので、小田原まで行くのは経験がありましたが、小田原で応援したことはありませんでした。

小田原は、非常によいところでした。まだ朝早かったので、応援までの時間もあり、小田原城址公園に入りました。人も少なかったのですが、広々として美しい公園でした。更に、公園内には、報徳二宮神社があり、二宮金次郎の像のオリジナルが見られます。境内には、きんじろうカフェなどがあって、とても良い雰囲気です。

隣には、児童図書館があるのですが、そこで面白いものを見つけました。「おだわらっ子の約束」という掲示なのですが、これが、非常に理にかなった約束なので、写真に撮ってきました。

ここに書かれていること、特に、「早寝早起きをして、朝ご飯を食べます。」というのは、いろいろな形で私が患者様にもお話していることで、これも、人生訓というような上から目線ではなく、自然にそういうことができるようになってくると、生活も安定してきますよ、というような意味で大事なことだと思っています。また、そういう努力の方向を頭に置いておくことも大事だと思います。

大きなシュロの木の横にあるこの看板は、気候の温暖な小田原らしさもかもしだして、お正月から良い発見をしたという気分になりました。

早稲田大学は、3位でしたがよく皆頑張ったと思います。上尾のハーフマラソンのあたりからは、密着して応援していましたが、それぞれの選手がそれぞれの思いをもって走る姿は、やはり大学スポーツならではだと思いました。

観戦のあとは、海辺に行き、家内と海を眺めて、帰りには家内の実家によって新年のご挨拶をして夜に帰宅しました。

良いお正月の一日が過ごせました。

2016年12月29日木曜日

女性と睡眠 (3) 妊娠と睡眠

最近、東京医科歯科大学で、産婦人科のグループと妊婦の睡眠についてディスカッションする機会がありました。睡眠専門外来に来るほどでない程度の妊婦の睡眠の問題は、我々にとってもとても勉強になるものです。また、不眠症やうつ病、その他の精神疾患で外来に受診されている患者様が、妊娠するということもありますので、このような問題について産婦人科の視点をよく知っておくということも大事だと思います。

女性は、10ヶ月もの長期にわたって、自分だけでなく
生まれてくる赤ちゃんを一日24時間感じながら
生活をするという時期をへて出産します。
男性には体験できない貴重な経験です。
妊婦に比較的よく見られる睡眠の障害についての研究は、東京医科歯科大学の精神科の阿部又一郎先生に教えていただいた下記のものを読んでみました。

S. Suxuki, L. Dennerstein, K. M. Greenwood, S. M. Armstrong and E. Satohisa. Sleeping patterns during pregnancy in Japanese women. J. Psychosom. Obstet. Cynecol. 15 (1994) 19-26

この論文は、札幌医大で行われた調査に基づいたものだということです。時期は、秋から冬で、睡眠日誌と質問紙による調査です。(睡眠日誌は、実際の患者さんにも私はよく用いますが、簡便でいろいろなことが分かる方法だと思っています。)

結果として、9割近い(88%)方々が妊娠して睡眠が変化したと答えているということです。また、妊娠期間を3つに分けた最初の3分の1の期間では、睡眠の質は悪化し、真ん中の3分の1の期間では、改善し、その後妊娠後期の3分の1の期間では再び悪化するという変化があるということでした。

特に、妊娠の前期は、悪阻のため、妊娠の後期では、お腹が大きくなってくるために、頻尿があり、腰や背中の痛み、そして胎児の動きによって睡眠が阻害されるということもあるようです。

その他、参加の先生方とのディスカッションでは、妊娠期間中の睡眠の質と、出産後の産褥期のうつ状態などとの関連も話し合われました。しかし、この分野はまだ十分な研究が行われているようではないようです。


もう一つは、妊娠期間中、授乳期間中に睡眠に関わる薬物投与がどうかということが有ります。

妊娠中の薬物投与は特に慎重にしたほうが良いと思いますが、妊娠継続のために薬物治療を続けたほうがければ相対的な重要性のために、続ける場合もあると思います。しかし、その場合の適応や、薬物の選択、投与量などは、主治医と慎重に相談する必要はあると思います。


2016年12月23日金曜日

女性と睡眠 (2) 月経周期と睡眠

女性の月経周期とホルモンの関係です
月経前の高温期には、プロゲステロンの
影響で、子宮内膜は肥厚し、体もむくんできます
月経周期と睡眠の関連については、多くの女性がそれを実感して生活していると思います。私は、男性ですので、これを実感することはできませんが、睡眠の話をきくときに、女性であれば月経周期との関連については見逃すことができません。

図は、女性の月経周期にともなう子宮内膜の肥厚や体温やホルモンの変化を表した図です。このような図は、たくさんの本に出ていますので、ご存じの方も多いと思います。

月経前の約2週間は高温期といって、体温が高くなります。図で言うと上から2番めの赤い線で書かれているのが体温です。矢印の眠い・だるいという時期に体温が高めなのがわかります。

また、その下に紫色でまるい山のように盛り上がっているのが、黄体ホルモンの量を示したものです。この時期は黄体ホルモンの量が多く、これによって子宮内膜は肥厚し、体もむくんでくるわけです。

そして、月経が始まると体温は下がり、黄体ホルモンも少ない状態に移行します。

体温が高く、黄体ホルモンが高く、子宮内膜が肥厚している時期に、なぜ眠気があったり、だるかったりするのかは、詳細なメカニズムはよく分かっていないと思います。月経前には体温が下がっていくので、これが眠気と関係あるということを書いているものもありましたが、推論であって正しいかどうかはわかりません。

しかし、現象としてこのようなことがあるのだということは、よく知っておく必要はあると思います。また、このような現象には個人差があり、この個人差が何からくるものかもよくわかりません。

女性ならではの、このような変化は、男性から見れば「神秘的」ともいえる現象ですね。

2016年12月18日日曜日

フィデル・カストロ議長の死を悼む (終)

キューバを訪問したのは、もう14年も前になりますが、そのころ考えたことはまだ良く覚えています。キューバは社会主義国ですが、ベルリンの壁崩壊後に訪れた旧社会主義国は、未だに人々のメンタリティーは、閉鎖的でシャイでやや暗い印象をもちました。ポーランド、チェコ、旧東ドイツのドレスデン、ジョージア(グルジア)などです。しかし、キューバの社会主義はヨーロッパの社会主義とは比べ物にならないほど明るい雰囲気でした。医療や教育は無料で、人々は幸せそうです。治安はよく、ハバナの街は夜の独り歩きも問題はありませんでした。

フィデル・カストロ国家評議会議長の名刺
しかし一方で、言論の統制はあり、人々がどのような議論も自由にできるかと言えば、必ずしもそうではないように思いました。しかし、主にはフロリダ州に住む、キューバ移民の人達は、キューバ革命の前に資本を持っていた人たちで、カストロに自分たちの財産を奪われたという思いで、現在のキューバ政権を受け入れることができないのだと思いますが、その時代の社会の仕組みが好ましいものであったのかどうかはわかりません。

実際に、現在のアメリカ合衆国もどのような方向に歩んでいくのかは非常に不透明です。

フィデル・カストロ国家評議会が亡くなったことで、キューバの体制は更に変わっていくのだと思いますが、一方で変化していくアメリカ合衆国やヨーロッパとの関係の中で、一体どのようにキューバが自身の位置づけをしていくのか。かつて訪問し貴重な経験をした国の行方に興味があります。

2016年12月16日金曜日

女性と睡眠 (1) 女性の睡眠時間

睡眠の外来を行っていると、女性の患者さんで睡眠の障害を訴える方も多く見えます。これから、しばらく、女性の睡眠についても取り上げてみたいと思っています。

表に示したのは、NHKが5年に一度行っている、国民生活時間調査の最も新しい、2015年調査の結果です。結果のポイントは、以下に示されていますが、これはNHKの報告サイトから引用したものです。これをみると、睡眠時間に男女差があるのがよくわかります。

男女ともに、最も睡眠時間が短いのは40代50代なのですが、その中でも最も短いのはこの調査では、50代の女性です。5年前は40代の女性だったので、5年前の調査のときに40代だった人たちが一部移行したという解釈もできるかもしれません。いずれにしても、この働き盛りの人達は、睡眠を多分「削って」仕事をしているように思います。

女性の方が睡眠が短いのは就床時刻(床につく時間)が遅いからのようです。この理由はハッキリとはわかりませんが、一つには生活のリズムとして男性の方が早く朝型になっていくということがあるようです。このデータは、以前日本大学医学部の内山真先生が出しておられました。これが、生物学的な男女差による要因か、それとも社会的な要因、つまり家庭内で寝る前におこなう仕事量が女性の方が大きいのかについては、更に調べる必要があるかと思います。日本においては、下記のサマリーにもあるように、家事を行う時間の男女差をみると女性の方が圧倒的に長く、更に女性の就労割合が増加していることを考えると、女性が睡眠時間を削って、家事と自分の仕事をしている様子が見ててくるようにも思います。家族の協力の中で、お母さんの睡眠時間を長くできるのであれば、協力していくことは大事なことですね。

また、これ以外の結果のポイントとしては、以下のものがあり、睡眠時間の減少が止まったというのは非常に良いニュースだと思います。
【2015年調査 結果のポイント】

  • 減少が止まった睡眠時間~一層進む『早起き』、そして『早寝』の増加~
  • テレビの視聴時間が高年層まで減少
  • 広がるビデオ・インターネットの利用
  • 続く長時間労働と働く時間の『早朝化』
  • 急速には縮まらない家事の男女差
  • 自由行動(レジャー活動・マスメディア接触など)の増加が止まり、必需行動(睡眠や食事など)が増加



2016年12月8日木曜日

フィデル・カストロ議長の死を悼む (3)


カストロ議長の両脇から、ほぼ交互にキューバ人
日本人が並んでいます。カストロ議長の向こう側に居る
日本人のご婦人は通訳の方で、先日もテレビに出ていた
ように思います。
私が発言しているところですが、
私の発言は失敗でした(本文参照)。
フィデル・カストロ国家評議会議長との会食会は、非常に壮大なスペースで行われました。体育館ほどではないかもしれませんが、その三分の二くらいはある部屋に、カタカナのロの字型に机が置かれ、そこに2-3名に一つづつマイクロフォンがあり、そのマイクロフォンを使って、食事を取りながらおしゃべりをするという趣向です。

席は、日本の代表団のメンバーとキューバ政府のメンバーがだいたい交互に座るような感じになっていたと思います。

会食は、夜の9時ころから始まって、多分終わったのは夜中の2時ころだったのではないでしょうか。キューバの美味しい食事、豚の丸焼きのようなものも出たと思います。

カストロ議長は、南米では良い外交をしているようで、チリの大統領とも仲が良くて、とても美味しいチリワインが手に入ったので、それを今日は皆さんに飲んでいただきましょうということで、頂いた覚えがあります。

マイクロフォンで食事をしながら、会話をするということなのですが、この9時から2時までの5時間のうち、多分8割がたはカストロ議長が話をしていたのではないでしょうか。話は、キューバ革命の時代の話から、現在の小学校教育に至るまで、様々な話がでました。私の印象では、カストロ議長は、キューバ人の父親であると行ってもよいほど、国の中の様々なことを把握しているように思いました。例えば、学校給食では、子どもたちの良い栄養状況のことを考えて、ヨーグルトを出すようにして、それもプレーンだと嫌いな子もいるので、ストロベリーやバナナの味をつけて出しているというようなことを話していました。また、学校には日本製のテレビを入れたのだけれども、日本製のテレビは全く壊れないので、とても素晴らしいとも話していたと思います。

キューバ革命のころの話をしているときに、私と同年代のキューバ政府のかたに、キューバ革命の頃のことを覚えているかと話したところ、まだ幼稚園、小学校低学年だったわけですから、なんとなく覚えているような気はするが、はっきりとした記憶はないと話していました。

キューバの国の政策や歴史に、責任をもってコメントできないのですが、当時のカストロ政権では、カストロと同年代の政治家はほぼ失脚し、若い世代が政治を担うようになっていたと聞いたように記憶しています。

このような話の中で、カストロ議長はそれなりにラディカルなことも話していました。ひとりひとりの日本人メンバーの自己紹介をするなかで、私の番が来て、精神科の医者で、睡眠の研究をしているというようなことを話しました。そうしたところ、カストロ議長は精神科に関連して、犯罪の話になりました。カストロ議長は犯罪者というのはどのような社会体制で、人々の暮らしを良くしても出てくる。これは、遺伝的な背景も絡んでいるということも考えられるので、研究が進めばこういった遺伝子を調べて犯罪をおかす前に隔離することも大切ではないかと言われました。私は、ここで、「遺伝的な背景がそうであっても、教育など環境的な要因によって、必ずしも誤った行動をするとは限らないので、その前に隔離をするといのは、人権上も、日本ではできないだろう。」と答えました。この、「人権」というところが、カストロ議長としては、聞き逃せなかったところであったようで、その後、約1時間近く、この点について、社会的正義との結びつきについて演説されました。私は、なにか、1時間近くカストロ議長に叱られているような感じでした。そのうえ、場の雰囲気を壊してしまったような気もしてあまり適当な話でなかったなと反省もしました。

そんなことも有りましたが、しかし、非常に価値のある経験だったと思います。今から考えると、本当に懐かしい思い出です。  (つづく)